雪白の月
act 5
石川が中央管理室へと戻ると、内藤が苦みばしった顔で出迎えてくれた―
「石川…そっちはどうだ?」
「今のところ、先ほどの物以外の爆発物は見つかっていません。現在も捜索中です。」
「そうか…。官邸の方も今のところ異常はない。が、引き続き警戒を。現在警察、内調の両方で主犯及びテログループの逮捕に全力をあげているからな…。」
「はい。」
「…で、岩瀬は?」
「…まだ…」
「そうか…。まぁアノ岩瀬のことだ、直ぐに目を覚まして鬱陶しいぐらいになるさ。」
内藤がおどけた口調でそう言う。
そんな内藤の心遣いに石川は感謝する…。
ほんの少し微笑みを浮かべた石川は、「そうですね…。」とだけ答えた。
そんな石川を痛々しそうに見やり、内藤はそれ以上かける言葉を失う…
そして石川は内藤を見て―
「では、引き続き警戒を。」
「あぁ…。!チョット待て!!」
石川の言葉で通信を切ろうとしたとき、内藤の無線に連絡が入った。
「あぁ…。あぁ…。ナニ!?…で?…あぁ…。」
段々と内藤の表情が険しくなる…。
その様子を見ている警備隊の面々もつられて表情が険しくなる。
「あぁ…解った。じゃあ主犯は抑えたんだな?…あぁ…。」
以外にも無線の内容は『主犯格の逮捕』であった…が、内藤の表情はすぐれない。
そんな内藤の表情を見て石川は
「内藤さん…。グループの方はまだ…?」
「あぁ。スマン…。主犯は逮捕したが、仲間が数名逃走した様だ。…だから一気に攻めろよって言っておいたのに…。」
内藤にしては珍しく、後悔の言葉が続く…
「内藤さん。やるべきことは同じです。これからどうしますか?」
こんな場面でも石川の表情は揺るがない。
『この落ち着きよう…“だからこそ”の隊長…か。』
内藤は内心、石川の心配をしていた自分を恥じた。
『これだから、―石川悠―は面白い。』
ニヤリ。と内藤は嗤い…
「あぁ。そうだな。スマン…」
「いえ。…」
「…このまま警戒を。逃げた連中の写真は直ぐに回す。また連絡する。」
「はい。」
「じゃあな。石川…負けるなよ?」
「…はい。」
そう言って内藤からの通信は切れた―
「警備レベル3を維持。外警に応援を。室管理はコンピューター班と共にモニターチェックを。」
「「「はい。」」」
「じゃあ、俺は外に出る。」
「待って下さい!!」
三舟の制止と石川の無線が同時に鳴る…
石川は三船に視線で『後で』と返事をし、無線に出る。
―ピッ―
「石川だ。」
「橋爪です。岩瀬の診断結果が出ました。」
「…岩瀬は…?」
「まだ目覚めません…。が、お話があります。今すぐメディカルルームへ来てください。」
「それは…岩瀬のことで…?」
「其れもあります。」
「…まだ犯人が捕まっていないんだが…?」
「解っています。ですが…」
石川が悩んでいると、三舟が「行ってきて下さい。こちらは大丈夫ですよ。」と言う。
室班の隊員も皆、頷いている…
「…解った。今から行くよ…」
石川はそう言うと無線を切り、三舟を見る。
「少し外す…。後は頼んだ。」
そう言って管理室を出た―
+ + +
石川はメディカルルームへ向かいながら―
『岩瀬の事で?何か重大な事があったのだろうか?』
そんな考えが頭をよぎる…
「俺のせいだ…。俺が先走ったから…岩瀬は…」
一度悪いほうへ走り始めた考えはとどまる事を知らず…
「…基寿…ゴメン…」
石川は立ち止まり、涙と共に零れ落ちた言葉は岩瀬に届くことなく…
暗い廊下に落ちていった―
>>act 6